【読書案内】複雑なインドを理解するための前提―保坂俊司『インド宗教興亡史』感想

哲学・宗教

概略

国民の約8割が信仰するヒンドゥー教と、少数派とはいえ有力な宗教が同居するインド。悠久の歴史において多くの宗教が生まれたこの地はまた、何度も外来の宗教勢力から侵略を受けたが、他宗教による攻撃すら飲み込みながらヒンドゥー教は拡大してきた。いく筋もの支流が集まり大河となるように、枝から延びる木根が幹となって大樹となるバニヤンのように…。仏教、ジャイナ教、ゾロアスター教、シク教、キリスト教、イスラム教など、ヒンドゥー教の歴史的ライバルとの対立や融和の関係から、インド文明を読み解く。

(カバーのそで(※表紙の内側に折り込む部分)より引用) ※なお漢数字は英数字に改めた。

はじめに

個人的なイメージなのですが、インドは宗教が生活に直接結びついてる濃いイメージです。

著者は、西洋的思考の対局にあるインドの包括的多様性がこれからの時代のヒントになるのではないかと述べています。

本書を読み進めるにしたがって、インドの柔軟性なり複雑性の理由が明かされていきます。

インド的なものの源流

征服者であるアーリア人による聖典『ヴェーダ』は有名だが、土着の宗教(ダーサの宗教など)もインド宗教の通奏低音として存在しているという。

その特徴は出家と修行。仏教・ジャイナ教などのインド発の宗教以外にも、外来宗教であるキリスト教やイスラム教、ゾロアスター教にもその影響が認められるという。

従来の研究ではあまり注目されなかったらしい。

ただ、インドでは独特の修行している人が今でもいそうなイメージがあるので個人的には納得できた。

身分固定化への反発

文学作品からの「輪廻転生」、ウパニシャッド哲学の「梵我一如」という認識はその後のインド宗教に共通する土台となった。

また、カースト制を敷くバラモン教に反発する形で、仏教・ジャイナ教が生まれた。

仏教は上座部仏教と大乗仏教に分かれる。大乗仏教は多様な文化が混ざり合うインド北西部で発生したが、シク教もまたこの地で生まれた宗教だった。

シク教の苦難

個人的に最も衝撃だったのがシク教の章だった。

シク教は、15世紀末にナーナクが開いた平和主義的な宗教である。

ヒンドゥー教とイスラム教が争う中で、苦難を神から与えられた試練として耐え忍ぶ立場をとる。

ナーナクが修行の際に、様々な宗教者を渡り訪ねたことも興味深いが、なによりもシク教の歴史そのものが非常に興味深かった。

多くの文化が混じり合う要衝に基板を持つ宗教のため、常に他の勢力から侵略されかねず、平和を守るために武装せざるを得なかった。

仏教やキリスト教の宗教施設では、創始者の生涯などが壁画として描かれることが多い。しかし、シク教寺院では、壮絶な戦いの中で亡くなった殉教者達の壁画が印象的だそうだ。

さいごに

意外と早く入っていたキリスト教やスーフィズムのイスラム教との融合、何故仏教がインドで滅び、ジャイナ教は残ったのかなど、他にも興味深い内容があるので、機会があれば読んでみてほしい。

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